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仙台高等裁判所秋田支部 平成6年(ラ)3号 決定

抗告人 甲野太郎

相手方 甲野花子

事件本人 甲野一郎

主文

原審判を取り消す。

本件を秋田家庭裁判所横手支部に差し戻す。

理由

1  本件即時抗告の趣旨及び理由

本件即時抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

2  そこで検討するのに、原審判はその理由中で、事件本人に特別な健康上の問題はないと述べており、また原審記録を精査しても、事件本人について、現在事実上監護している抗告人方での養育が不適当であり、養育場所を変更しなければ重大な支障をもたらすような状況を認めるに足らない。

そうすると、原審判は、ひっきょう、事件本人が1歳未満の乳幼児であり、この時期に母親の監護養育を得られなかった場合には将来の発育上重大な影響を及ぼす可能性があるとの一般的、抽象的な判断のみに基づいて、なされたものと解される。

しかし、1歳未満の時期に母親に養育されなかったからといって直ちに発育上重大な影響を及ぼすとは限らないのであって、事件本人を父母いずれの監護養育の下に置くのが相当か、特に本件のように事件本人につき現在の保護環境の変更を認める場合には、それなりの具体的根拠が示されるべきであるし、そのためには、家庭裁判所調査官の調査を経るなどして、事件本人を取り巻く双方の保護環境等についてのより詳細かつ具体的な資料を収集した上、実情に即した判断が必要である。

それにもかかわらず、暫定的なものではあっても、ただ単に、事件本人が1歳未満の乳幼児であることのみを理由として相手方を事件本人の監護者と仮に指定し、抗告人に対し事件本人の引渡しを命じた原審判は、相当でないというべきである。

3  よって、本件抗告は理由があるから、家事審判規則19条1項により原審判を取消し、更に審理を尽くさせるため、本件を秋田家庭裁判所横手支部に差し戻すこととする。

(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 富川照雄 佐藤明)

(別紙)

即時抗告の申立

事件名 審判前の仮処分申立抗告事件

(本案 平成6年(家)第××号子の監護者の指定申立事件)

仙台高等裁判所

秋田支部 御中

平成6年×月×日

抗告申立人代理人

弁護士 ○○○○

当事者の表示〈省略〉

添付書類〈省略〉

抗告の趣旨

秋田家庭裁判所横手支部平成6年(家ロ)第1号審判前の仮処分申立事件の平成6年4月26日付

「1 申立人と相手方間の当庁平成6年(家)第××号子の監護者の指定申立事件が終了するまで事件本人の監護者を申立人と仮に指定する。

2 相手方は申立人に対し事件本人甲野一郎を仮に引き渡せ。」

との審判はこれを取消し、本件を秋田家庭裁判所横手支部に差し戻すとの裁判を求めます。

抗告の理由

1、原審家庭裁判所は本件仮処分の理由として、2当裁判所の判断において、「事件本人の監護養育について、現在、急迫、危険な状態は認められない」と認定し、仮処分申立人が事件本人に急迫、危険な状態があるとして申立てた理由については事実を否定した。

家事審判規則第52条の2によれば、「強制執行を保全し」又は「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要がある」時とその仮処分の要件を定めているが、本件仮処分の理由はいずれの要件もなく仮処分の決定を出した。

よって、本件仮処分は違法である。

2、更に、仮処分申立人花子の現状について、「申立人の実母は再婚先を出て、申立人を伴って○○市内の借家で居住しており、事件本人を引き取った場合は、申立人及び申立人の実母がその監護養育を行う予定である。」と認定しているが、花子の実母の現状について認識が不足である。

花子の実母は三度目の再婚先の夫の家があり、離婚でもしない限り「申立人の実母は再婚先を出て」ということは常識上不可能であることは目に見えている。現に仮処分の審尋後、本件仮処分後、花子の母は夫の家の方に戻っており、その周囲の実情は抗告申立人の上申書(乙第3号証)のとおりであって、花子の実母が常時花子や事件本人と同居し、事件本人を監護できる状態にはなく、且又、花子の実母が事件本人を監護養育することは従来のその他の親類関係から、夫の周囲から強い反対がある。

更に、花子の実母が心臓の疾患を有することからも、事件本人の平穏な養育に適しない。

3、本件仮処分は家事審判規則第52条の2の要件がなく、又、抗告申立人の仮処分答弁書並びに上申書のとおり、事件本人にとっては当面抗告申立人方で監護されることが平穏で健康的な環境であると認められるものであるので、申立の趣旨のとおりの裁判を求めるものである。

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